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最高裁判所第一小法廷 昭和29年(あ)3573号 判決 1957年2月14日

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人坂本英雄の上告趣意は、判例違反を主張するが、論旨が自ら述べているとおり、所論引用の大審院判例(明治四二年(れ)第一一八三号、同年一二月三日第一刑事部判決、大審院刑事判決録一五輯一七二四頁)は、所論当裁判所判例(昭和二七年(あ)第六六四号、同二八年四月一四日第三小法廷判決、最高裁判所刑事判例集七巻四号八五〇頁)により、これと抵触する限度において変更されたものと見るを相当とする。そして、原判決が大審院の判例と相反する判断をしたことを適法な上告理由として主張することが許されるためには、当該事項について最高裁判所の判例がないことを要件とする。しかるに、所論の事項については、前述のとおり所論大審院判例を変更した最高裁判所の判例が現存しているのであるから、所論判例違反の主張は刑訴四〇五条の適法な上告理由に当らないと言わなければならぬ。

次に、本件で問題になっている刑法五四条一項前段が、「一個ノ行為ニシテ数個ノ罪名ニ触レ」るときは、「其最モ重キ刑ヲ以テ処断ス」と規定しているのは、その数個の罪名中もっとも重い刑を定めている法条によって処断するという趣旨を含むと共に、該法条の下限の刑が他の法条の下限の刑より軽い場合には、各本条の中もっとも重い下限の刑よりも軽く処断することはできないという趣旨を含むものと解するのが相当であり合理的である。原判決は、この見解に従ってこれと反する第一審判決を是正し、検察官の控訴理由を認めたのであるから、所論の判断遺脱の違法はない。原判決は破棄自判するに当り各傷害の罪については懲役刑を選択したのであるから、前記最高裁判所の判例を是認した説示と毫も矛盾するところはなく、所論の違法は存在しない。それ故、論旨は採ることをえない。

本件のごとく、公務執行妨害と傷害とが刑法五四条一項前段の関係に立つ場合には法定刑の重い傷害罪の規定によって処断すべきであるが、そうだといって傷害罪については定めがあっても、公務執行妨害罪については定めのない罰金刑をもって処断することの許さるべきものでないことは、前記当裁判所の判例に示されているとおりであるから、この判例に従って第一審判決の違法を是正した原判決には所論の違法はない。

また記録を調べても、本件につき刑訴四一一条を適用すべき事由ありとは認められない。

よって、刑訴四〇八条により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 真野毅 裁判官 斎藤悠輔 裁判官 入江俊郎)

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